LACK
堕ちる。
堕ちる。
堕ちてゆく。
昨夜もそうだった。だからきっと、今夜もそうだ。
今夜も堕ちるの。
誰かと、一緒に。或いは私独りで。暗い奈落の底に、朝を目指して堕ちていくの。
昨夜は……そうだ、誰か名前も知らない相手とSEXしたんだ。
最初はバーでお酒を飲んで、それから『誰か名前も知らない相手』に声を掛けられてしばらく一緒に飲んで、そしてお決まりのコース。
昨夜の『誰か名前も知らない相手』はどんな人だったっけ。ちゃんとした名前も聞いた様な気がする。だけど、もう何も憶えていない。何一つ憶えていない。
ただ、手の大きい人だったな。大きくて、なんでも包み込んでくれそうだった。いや、呑まれそうだった。そんな印象しかない。最低だな、私は。
だけど、昨夜の『誰か名前も知らない相手』もきっと私のことなんて覚えていないんだろう。
今夜はどうしようか。どうやって過ごそう。どうせ眠れないのだから今夜もどこかでお酒を飲もうか。そしてまた、『誰か名前も知らない相手』とSEXする。
……本当にお決まりのコースだ。よく飽きないなと、自分でも思う。だがそれ以前に他にする事がないのだ。なにもない。
私には何も、ない。
今夜もいつものお店で人を待つ。『誰か名前も知らない相手』を。今夜は誰が私に声を掛けるの?
その声の主は知り合いのもの。学生時代の後輩。可愛い顔をしているくせにホストのようなスーツを着て、高価そうなシルバーアクセサリーを身につけて。今夜は彼でも良いか。
別に彼とSEXするのは初めてじゃない。きっと彼もそのつもりだろう。だけど私は、尤もらしい質問をする。震えた声、濡れた瞳で誘うように。彼は可愛らしい顔で不敵な笑みを絶やさない。
「今夜はどうしたの?」
「眠れなくて……」
汝、濡れぬ先にこそ露をも厭え
BGM : Janne Da Arc『Speed』
end
後書
相互記念に友人へ贈ったもの。それに加筆修正しました。
BGMをテーマにルーズリーフ一発書き。
(20080729)